「常に成長し続ける自分でいたい」

〜22期・大川氏、終わらない挑戦〜

2007年6月16日(土)、第78回都市対抗野球兵庫地区2次予選の代表決定戦で勝利した 三菱重工神戸は2年ぶり25度目の本選(東京ドーム)出場を決めました。 その本選開幕を8月24日(土)に控えて最後の調整に入っている8月8日(水)、 兵庫県明石市の同野球部グラウンドに、同部の監督である光陵高校野球部22期生・ 大川広誉氏を訪ね、インタビュー取材をさせていただきました。

大川氏は高校卒業後は慶応大学に進んで硬式野球部に入部。大学2年次から頭角を現し、 大学4年次には副主将も務めました。1995年の大学卒業後は三菱重工業に就職。 早くから三菱重工神戸の強打の三塁手として活躍し、1997年の日本選手権優勝にはレギュラーとして大きく貢献。 同年の社会人野球ベストナインにも選出されました。コーチ兼任の時期も経て2006年からは 現役を引退して監督就任。現在監督2年目を迎える、若き指揮官です。

当日はやはり本大会出場を決めている三菱重工広島との壮行試合が行われました。 相手チームのみならずマスコミ・従業員・ファン・他チーム関係者等も訪れるお忙しい中、 試合後に時間を取って取材に応じていただきました。

(25期・山口陽三編、写真も)

都市対抗野球本選を迎えて
山口 まずは2年ぶり、監督しては初めてとなりますが、都市対抗本選への出場、
おめでとうございます。
大川 ありがとう。
山口 昨年の予選敗退という結果から、1年間でこういう結果に
なったわけですがこの1年間はどういう思いでやってこられましたか?
大川 心境の変化はあった。監督と選手では目線や視点がぜんぜん違う。
監督として知らなきゃいけない野球があることに気づいた。
昨年はやはり余裕がなかった。
山口 チームとしての変化はいかがですか?
大川 新戦力が入ってくれたのが大きい。自分で見て獲ってきた最初の選手たちだし。
今まで若い力がなかったのを下から突き上げてくれた。
コーチ・主将らの協力もあって組織として一枚岩になれていると感じているし、
そうじゃないと勝てないとも思う。
山口 本選まで1ヶ月を切っていますが
本選に向けてチームの仕上がり具合はいかがですか?
大川 調子もいいし調子が悪くてもそこそこ戦える。チーム力としていい状態にある。
補強選手も機能しているしね。東京で勝ってやるぞという気持ちになっている。
※補強選手:同地区の予選敗退チームから一定人数以内、本選用に補強できる
山口 補強選手の話が出ましたが、これは都市対抗野球特有の制度で、今回監督として
初めての作業となりましたよね。今回新日鉄広畑から4選手を補強していらっしゃい
ますがどういう基準で選抜されたんですか?
大川 うちの補強ポイントだね。捕手が二人しかいないから一人ほしい。それと新日鉄の
エースが左だったからこれもほしい。あと打てて守れるショートがほしいと
思っていたのでそれも指名。外野も一人獲ってるんだけどうちは外野の層が
厚いから外野手はいなくてもよかったけれど、打てる左打者を探していたら
たまたま外野手だった、てところかな。
山口 本選ではどんな戦いを見せてくれますか? 具体的に期待する選手などは?
大川 投手は新日鉄の左が入ってくれて中継ぎで使えるのでだいぶ継投しやすくなった。
攻撃の方は俺は「中軸」という考えは持っていないのよ。打線はつながり。
4番だろうが9番だろうがその場で必要な仕事をしてつなぐ。good jobが合言葉
になっている。投手も攻撃も「全員でつないで」だね。
山口 (メール交換の中で)本選出場が決まって喜びよりもすぐに次のことを考えたと
うかがいましたがどんなことを?
大川 代表決定戦で勝った瞬間、今のままでは本選で勝てないと思った。
だからいつもは予選が終わって1週間や10日、休むところを異例中の異例、
3日だけ休んですぐ練習を再開した。27才以下の若手・中堅を中心に鍛えた。
鉄は熱いうちに打て、と。それがここに来て伸びてきた。
日本選手権が10月だったころは11月に秋季練習ができたけど今は
日本選手権が遅い(11月末)のでそのままオフになっちゃう。
7月〜10月が鍛える時期に変わってきている。
山口 なるほど。若手ということで言うと、今日の試合(7-4で勝利)でも、
レギュラーの中にすでに新人が3人入っていますね。
大川 監督就任のとき10年先を見据えたチーム作りを考えた。
若い選手を育てなきゃいけない。うちは97年の日本選手権優勝のあと
チーム作りを怠ってきたと思う。自分が監督をやったあとに
あとの人に迷惑をかけないように、また、三菱重工神戸という
チームがずっと続いていくために、そのために今、若い選手を
育てようと思っている。
指導者として
山口 監督ということで、チームを勝たせる采配はもちろん、一方で指導者という
側面も持つわけですが選手に教えることで何か心がけていることはございますか?
大川 コミュニケーションをよくとる、よく話すようにしている。
コミュニケーションツールは話すだけじゃなくてノート交換、メール交換
もあるけどね。人を知ることを心がけて、「いいところを引き出す」。
昨年は逆でうまくいかなかった。悪いところを責めてプレッシャーかけて
試合で力が出ない、みたいな。今思えば昨年はがんじがらめにしていた。
それに気づいて秋にのびのびやらせたら勝った(日本選手権本選出場)。
でも今年もそうしようかと思ったら選手は「それは求めません。それで
勝てるほど甘いとは思っていません」とね。
山口 選手側も一段成長した、といったところですね。
大川 そうそう。だから俺の考えと選手の考えが噛み合ってきたよね。
今年なんかぜんぜん怒ってない。監督が何を求めるかわかって
きてくれている。俺の必死さも選手に伝わっていると思う。
山口 次は技術的な指導の部分になりますが、大川さんは野手の出身であるわけ
ですが投手の指導についてはどのように?
大川 投手にも口を出すよ。でもすごく勉強もしている。頭の勉強もそうだけど、
今年は5日連続紅白戦で両チーム分、俺がフルイニング投げた。
どうすれば打ち取れるとか打たれるとかね、高校のときは投手もやったけど、
それを体感する。2000球くらい投げたけどさ。
投手には生きたまっすぐを投げろ、ストレートを磨けと言っている。
それがないと変化球も生きない。それとストライクゾーンに入れること。
どまんなかの練習ってしてもいいと思うんだよね。特に高校生なんか。
ブルペンだとコースを狙う練習するじゃん。
でも打ってこないカウントでストライク取ることも大切。
山口 今度は野手の方の話になりますが。
大川さんが野球選手として非常に特徴的で成功もされたのはスイッチヒッター
だということがあるのではと、これはご自身もそう思っていると思うのですが
スイッチヒッターの教育は...?
大川 今のうちの選手にはいないね。興味を示すヤツがいないかな。
あ、でもおもしろいのはね。采配に影響したことがあって。
昨年はけっこう右投手に左、左投手に右の代打を出してたのよ。
自分が右で右、左で左を打ってないからさ。でも連中(片打ち)にとって
みれば右打者は相手が右でも右で打つし、左打者は相手が左でも左で打つし、
あたりまえのことなんだよね。そこに気づくのに時間がかかった。
今年はあえて逆の代打を出してみたりしている。意外と打つんだよね。
山口 なるほど、スイッチヒッターの人が監督をやるとそういう弊害が...
盲点ですね。なかなかスイッチヒッターの監督もいないでしょうけれど。
メッセージなど
山口 社会人野球を取り巻く環境や事情が大きく変わっています。僕も社会人野球を
やっていてそれを感じるのですが。今のご時世の中で社会人野球というものの
目指す方向、あるべき姿、役割、価値などについてお考えがあれば。
大川 日本ではスポーツの地位が低い。だから経済状況に左右される。
文化的地位として認められるべき。企業には宣伝とかお金がどうとかじゃなく
社会貢献(文化活動)と思ってほしい。その対象がたまたまある会社は野球だったり
ある会社は芸術だったりすればいい。わかっている経営者もいるとは思うけど。
社員の中にも野球を会社のアイデンティティーと考えてくれている人もいる。
山口 光陵野球部にメッセージがあれば。
大川 (光陵のみならず野球をやる若い人たちに、だけど)野球は謙虚じゃないとダメ。
油断することが嫌いなので気を抜くなと言いたい。
野球はうまくいかないことだらけ。いいことなんてほとんどない(特に若いときは)。
自分も高校時代はすごく好きなのになんでうまくいかないのかと思っていた。
でもうまくなってくるとすごく楽しい。
うまくいかないけれどそれにどう向き合うか。人生といっしょ。
「野球を一生懸命やっていれば社会で役立つ」っていう人がいて、まちがって
ないと思うけれど言われた方はわからない。でもその通り。
野球とどうつき合うかが自分の生き様になるし、人生につながる。
投げ出すのか食らいつくのか他の道なのか。人生もいっしょ。
山口 最後に目標などをお聞かせいただければ。
大川 常に成長し続ける自分でありたい。都市対抗優勝は目標だけどそれで終わり
じゃない。エンドレスだよね。「常に今が楽しい」と思ってやってきたつもり。
「○年前のあのときが1番楽しかったよね」だとそこで成長が止まっている
証拠だと思う。
山口 お忙しい中、ありがとうございました。本選でもがんばってください。
大川 おお、遠いところわざわざありがとう。


グラウンド風景
(日本一の横断幕も)


試合前にグラウンドを見つめる


スタンド
(ファンや社員も)


試合風景


サイン


選手に指示


円陣で指示を出す(右端)


マウンドで檄を飛ばす


投球練習を見つめる



スケジュール
(星野JAPANとの試合や
本社激励会も)


取材風景


取材を終えて山口と


<編集後記>
大変有意義なお話をさせていただきました。大川さんとは3学年離れているので高校で いっしょにはやっておらず、これだけ長く深くお話を聞く機会はなかったのですが、 聞くことができてよかったです。純粋に、真剣に、まっすぐに、野球に取り組んでいる ということが強く感じられ、また明確なビジョンのもと、強いチームを作るという成果も出始めていて、 大川さん自身も充実した日々を過ごしておられることも感じました。 すばらしい先輩がいることを誇りに思います。

光陵高校の卒業生として "野球進路" をこれだけしっかり歩んでこられた存在は 他になく、非常に稀有な存在であるとも思うのですが一方で、常に自分の成長を求める 光陵の卒業生らしさも感じられました。

本選での躍進、また今大会のみならず三菱重工神戸というチームの今後に 期待したいと思います。


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